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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)107号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。

二 そこで、原告ら主張の審決の取消事由の存否について判断する。

1 成立に争いのない甲第二号証によれば、本願明細書には、本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果について、次のとおり記載されていることが認められる。

(一) 本願発明は、人工芝生製運動競技場に関するものである(本願明細書第二頁第一行、第二行)。一般に、人工芝生は、ポリアミド、アクリル、塩化ビニリデン、もしくはポリプロピレン等の合成樹脂から作られた扁平なパイル糸を例えば裏打ち基面に種々の方法で植毛したものから成り、その特性を天然芝生により近似させるため人工芝生の芝目内に乾燥した砂(鉱物粒子)を充填する先行例があるが、この砂層の水分保持の能力を高めるため細かい砂を用いると、経時的に固くなりすぎ適度のクツシヨン性が損なわれるばかりでなく、砂が風等によつて舞い上げられ労働安全衛生及び環境衛生上好ましくない欠点があり、この砂層の上に土壌固定剤を散布して表面を固めたり、砂の粒径をある程度に抑える代わりにバーミユキユライトや塩化カルシユウム等の水分保持材料を混入する方法も保守管理やコスト等から問題があつた(同第二頁第三行ないし第四頁第五行)。

本願発明は、前記の知見に基づき、緩衝能力及びスパイクの引掛り防止能力はもとより、保水能力においても天然芝生に近似した特性を有するとともに、施工が容易であり、しかも風等によるダスト発生が極めて少ない砂層を備えた人工芝生製運動競技場を提供することを技術的課題(目的)とするものである(同第四頁第六行ないし第一一行)。

(二) 本願発明は、前記技術的課題(目的)は、人工芝生の芝目内に一〇〇メツシユないし一四メツシユの範囲内にある粒度のものを九〇%以上含んでいる川砂を充填することにより達成される(同第四頁第一二行ないし第一五行、昭和六二年五月一日付け手続補正書第二頁第三行ないし第七行)として、特許請求の範囲(本願発明の要旨)記載の構成(同補正書別紙第三行ないし第九行)を採用したものである。

(三) 本願発明は、前記構成を採用したことにより、「施工時および施工後における砂の飛散が少なく、従来のように土壌固定剤を散布して砂層の表面を固める必要はない。さらに、保水能力についても良好な値を示すため、殊更バーミユキユライト等の水分保持材料を混入する必要がなく、したがつて、施工しやすく、コスト的にも有利である。他方、人工芝生2の基布4は非透水性であるため、雨水の浸透による安定処理された地盤の軟弱化が防止され、その地盤を長期にわたつて安定させることができる」(本願明細書第九頁第一行ないし第一一行)という作用効果を奏するものである。

2 引用例には、審決の理由の要点2摘示の技術内容が記載されていること、本願発明と引用例記載の発明との一致点、相違点が審決認定のとおりであることは、当事者間に争いがない。

原告らは、本願発明と引用例記載の発明との相違点(2)「粒状材料は、本願発明では川砂であるのに対し、引用例に記載された事項では不規則で角張つた粒状材料であり、しかも、粒状材料の最良の組合せは粒状石炭スラグであつて、粒状材料に関する従来例としては細砂の川砂(fine river sand)である点」についての審決の判断を争うのでこの点について検討する。

前記1認定事実によれば、本願発明は人工芝生製競技場における人工芝生の芝目内に川砂を充填するものであるところ、成立に争いのない乙第一号証(テルツアギ・ペツク著小野薫他三名訳「土質力学基礎編」丸善株式会社昭和三〇年七月一日発行)によれば、「砂は、主として石英の粒子で出来ている。各粒子は角ばつたもの、稍々角ばつたもの、或は円いもの等がある。」(第七頁第一〇行:第一一行)と記載されていること、成立に争いのない乙第二号証(土質工学会土のはなし編集グループ編「土のはなしⅡ」技報堂出版株式会社昭和五四年六月一〇日発行)によれば、「砂場で遊んでいる子供たちに、「この砂は川からもつてきた砂?それとも海の砂?」と聞かれたらどうします。(中略)砂とは(中略)日本の土質工学の分野では、土質の分類法が規準化されていますが、その分類では図―1に示されるように〇・〇七四~二mmの粒径範囲をいつています。」(第五二頁第二行ないし第八行)、「川砂か海砂かを見分けるもつとも代表的な方法は、なんといつても砂粒子の形状をみることでしよう。端的にいつて、川の砂は角ばつているが、海の砂は角ばり方が少ないか丸みをおびているということになります。これは、河川を流れるときはそれほど長い距離ではなく、また水のなかを浮遊して運ばれるために、もとの母岩から生まれた砂もまた角ばつているからです。一方、海の場合は、沿岸流などの強い恒常的な流れや、浜辺での繰り返しの波のしわざで、砂粒子どうしがもまれて角がとれて丸みをおびてくるということになります。」(第五三頁末行ないし第五四頁図―3下第八行)、「ブロツク積みをする(中略)とき使用されるモルタル(セメント+砂)には川砂が理想的です。」(第五八頁第六行、第七行)と記載されていることが認められる。

右の認定事実によれば、砂は、その粒子の形状から角ばつたもの、やや角ばつたもの、円いものに区別されるが、川砂は母岩から生成して河川を浮遊しながら運ばれ堆積するものであるため通常角張つた形状のものであつて、建築材料として普通に用いられていることが認められる。

一方、成立に争いのない甲第三号証によれば、第一引用例には、「USスクリーン六~一〇〇メツシユサイズの不規則な角張つた粒状材料を使用すると天然芝生の持つ衝撃吸収特性に迫るものを提供するのみならず、それを上記のようにパイル要素間のパイル織物の裏材の上に散布せしめるとパイル要素及びたくさんのゴルフア達が踏みつける影響でほとんど凝固しない傾向を持つものであることを発見した。特に、上記粒状材料の粒子がUSスクリーン一二から五〇メツシユサイズである場合、つまり一二メツシユのふるいを通過し五〇メツシユのふるいに残るものから成る場合に最も有益な結果が得られた。」(第四欄第八行ないし第二〇行)と記載され、最善の組合せとして粒状石炭スラグが挙げられている(第四欄第二九行ないし第三一行)ほか、破砕した花崗岩や燧石も例示されていること(第五欄第六六行、第六七行)が認められ、花崗岩や燧石が石英を主成分とするものであり、かつ川砂の母岩にはこの花崗岩や燧石も含まれることは常識的な事項である。

したがつて、引用例記載の発明において、人工芝生製運動競技場に敷設される芝目内に散布する不規則な角張つた形状の粒状材料として川砂を選択することは、当業者が容易に想到し得ることというべきである。

この点について、原告らは、川砂は水又はその他の摩耗作用によつて完全に又は十分角が丸められているもので一般的には球形をしているものである旨主張する。

成立に争いのない甲第四号証(田村恭編著「建築材料要説」産業図書株式会社昭和五五年五月二三日初版、昭和六一年二月二五日第六刷発行)によれば、表3・8(第四五頁)に「分類 丸みを帯びたもの」、「形状 水またはその他の磨耗作用によつて、完全にまたは十分角が丸められている」、「例 川砂利、海砂利(後略)」と記載され、また、成立に争いのない甲第五号証(後藤清著)「コンクリートの設計と施工 上巻」工学出版株式会社昭和四二年四月三〇日発行)によれば、表―23(第一〇四頁)に、「項目 川砂」、「外観 球形」と記載され、さらに成立に争いのない甲第六号証(岡田清、六車煕編「改訂新版コンクリート工学ハンドブツク」株式会社朝倉書店昭和五六年一一月二〇日発行)によれば、「川砂、川砂利は川底から採取したもので、水流によつて角がとれて丸味があり」(第八四頁第二〇行)と記載されていることが認められる。

しかしながら、「砂」とは細かい岩石の粒より成るもので、〇・〇七四~二mmの粒径の範囲のものをいい、粒径の大きい小石又は小石に砂の混じた「砂利」とは区別される(このことは、当事者間に争いがない。)から、川砂利に関する前掲甲第四号証の記載は前記認定の妨げとなるものでなく、また、粒径の小さい川砂は川砂利と異なつて軽量であるため前掲乙第二号証に記載されているように水に浮遊して運ばれ母岩が破粉されたときの形状を保持して堆積するものであり、その間の水による摩耗作用を考慮しても不規則な角張つた形状を保持するものであり、特に母岩が比較的堅く、河川によつて運搬された距離が短いときにその傾向が顕著であることは技術上自明であるから、右甲第五、第六号証の記載によつても前記認定を左右することはできない。

また、弁論の全趣旨に徴し、原告ら主張の川砂と粒状石炭スラグとを対比した写真と認められる甲第九号証の一ないし五も川砂には粒状石炭スラグと比較すると丸味がかつた形状のものも含まれているというにとどまり、これをもつて川砂が不規則で角張つた形状のものでないとはいえない。

しかも、前掲甲第二号証の一、二によれば、願書添付の本願明細書においては、特許請求の範囲及び発明の詳細な説明中で「乾燥砂」とされていたものを昭和六二年五月一日付け手続補正書により「川砂」と限定したものであり、補正後の明細書には、川砂の形状についても、また特に川砂を選択したことの意義についても何ら記述されていないと認められることからみて、本願発明において川砂と限定したことに格別の技術的意義を見いだすことはできない。

この点について、さらに、原告らは、引用例の第三欄第六二行ないし第四欄第六五行の記載事項から明らかなように、微細な川砂(fine river sand)が粒状材料として不適当であるとの実験結果に基づいて粒状石炭スラグ等の不規則な角張つた粒状材料を使用することを特徴とするものであつて、引用例に川砂も使用可能である旨の特段の記載がない以上、引用例の記載事項から川砂が芝目内に散布される粒状材料として使用可能なものとは到底想到し得ない旨主張する。

なるほど、前掲甲第三号証によれば、引用例には、「普通の微細な川砂をパイル要素間の草に類似したパイル織物の裏材の上に散布させた。最初はその砂は人工疑似芝生製品に高い衝撃吸収特性を与えたが、長期間の使用と様々な天候にさらされると、砂は凝固して固い層を形成しがちになり、望ましい衝撃吸収特性を失うことが判明した。その固まつた硬い砂の層を破壊しようとすれば非常に費用がかかり、またしばしば下部構造であるパイル織物に損傷を与える結果となつた。」(第三欄第六五行ないし第四欄第七行)と記載されていることが認められる。しかしながら、引用例が右記載事項において不適当としているのは、「fine river sand」(微細な川砂、審決のいう細砂の川砂)であつて、川砂一般ではない。そして、成立に争いのない乙第四号証(土木用語辞典編集委員会編「土木用語辞典」株式会社コロナ、株式会社技報堂昭和四八年二月一〇日発行)によれば、「細砂 fine sand」とは「粒径の小さい砂、ASTMの土の分類によると粒径〇・二五~〇・〇五mmの砂をいう。」(第五八三頁右欄第一八行ないし第二四行)と記載されていること、成立に争いのない乙第三号証(土質工学会編「土質試験法」社団法人土質工学会昭和四六年三月二五日発行)によれば、〇・二五~〇・〇五mmの砂は米国標準フルイにおいて六〇メツシユないし二七〇メツシユに相当する(第六四八頁の対照表参照)ことが認められるから、引用例において粒状材料として不適当とする微細な川砂は六〇メツシユないし二七〇メツシユのものであつて、引用例には右記載に引き続き、前記認定のとおり「上記粒状材料の粒子がUSスクリーン一二から五〇メツシユサイズである場合(中略)最も有益な結果が得られた」(第四欄第一六行ないし第二〇行)と記載されているから、川砂も不規則で角張つた粒状材料といい得ること前述のとおりである以上、引用例記載の発明において右数値範囲内の川砂を使用できることは当業者が容易に想到し得ることというべきであつて、原告らの前記主張は理由がない。

したがつて、本願発明と第一引用例記載の発明との前記相違点(2)について、引用例の不規則で角張つた粒状材料として本願発明のように川砂を用いることは当業者が容易に想到し得る程度のことにすぎないとした審決の判断に誤りはない。

3 次に、原告らは、本願発明と引用例記載の発明との相違点(3)「本願発明は一〇〇メツシユないし一四メツシユの範囲内にある粒度のものを九〇%以上含んでいるのに対し、引用例に記載された事項は六~一〇〇USメツシユスクリーンの間にわたるサイズの、特に一二~五〇USメツシユスクリーンサイズのものより成る点」についての審決の判断を争うので、この点について検討する。

まず、粒度範囲について本願発明と引用例記載の発明とを対比すると、両者は五〇~一四メツシユのものを含む点において一致しており、ただ、引用例記載の発明が一三及び一二メツシユのものを含む点において相違するにすぎず、しかも本願発明においては一〇%を越えない限度で一〇〇~一四メツシユ外のものを含んでいるから、両者の粒度範囲は極めて近似しているということができる。そして、前掲甲第二号証の一、二によれば、本願明細書には、その上限(一〇〇メツシユ)については、「粒度が一〇〇メツシユより細かい砂は競技者の踏圧等によつて徐々につき固められる傾向にあり、また、多分にダストとして舞い上つてしまう虞れがあり、特にインドアー施設の場合、労働安全衛生上また環境衛生上好ましくない」(第六頁第一一行ないし第一五行)と記載されているが、その下限(一四メツシユ)については、一四メツシユより粒度の大きいものではいかなる不都合が生ずるかについての記載はなく、ただ、右記載に引き続き「砂の粒度が上記範囲内の場合は、風の摩擦速度が秒速一・五cm(地上一mでの風速は秒速約四mに相当する)程度ではパイル糸5の防砂作用と相俟つて殆ど吹き飛ばされることがなく、加えて砂には細かいものほど下層に沈降し、他方、粗い砂は上方に上つてくる性質があるため、この点からしても風による飛散が効果的に防止される。他方、その粒度との関係からして保水能力および排水性がともにある程度満足する結果が得られる」(第六頁第一六行ないし第七頁第四行)と記載されていることが認められる。一方、引用例には、「USスクリーン六~一〇〇メツシユサイズの不規則な角張つた粒状材料を使用すると天然芝生の持つ衝撃吸収特性に迫るものを提供する。」(第四欄第八行ないし第一二行)、と記載されていることは前記認定のとおりであり、前掲甲第三号証によれば、引用例には、さらに「パイル要素は粒状材料が移動しないように安定させ、実質的に非凝固性物質の風や水による浸食を遅延させる傾向を有する。」(第四欄第二三行ないし第二六行)、「本発明は最良のパラメーターにより天然芝生と同等もしくはそれ以上の優れた競技用特性あるいはボール制御特性を有する擬似草競技面を有する合成製品を提供するものであることがわかる。」(第六欄第六三行ないし第六八行)と記載されていることが認められ、両者の記載事項を対比すると、その作用効果に格別の差異のないことが明らかである。

したがつて、本願発明において「一〇〇メツシユないし一四メツシユの範囲内にある粒度のものを九〇%以上含んでいる」とした点は、引用例記載の発明における望ましい粒度範囲五〇~一二メツシユのものと比較して数値的に極めて近似し、かつその作用効果においても格別の差異がないから、引用例の記載事項に基づき粒度範囲を本願発明のように限定することは、当業者が格別の創意を要せずになし得る程度のことというべきである。

この点に関して、原告らは、引用例記載の発明が前述のように微細な川砂が粒状材料として不適当であるとの理由で粒状石炭スラグ等の不規則な角張つた粒状材料を使用したものであるから、引用例記載の前記粒度範囲についての数値が川砂の場合にも妥当すると解することは不都合である旨主張する。

しかしながら、引用例において粒状材料としては不適当であるとする川砂は、六〇メツシユないし二七〇メツシユの微細な川砂であり、すべての川砂を不適当とするものでなく、川砂も不規則で角張つた粒状材料といい得ることは前述のとおりであるから、引用例記載の前記粒度範囲についての数値は川砂にも妥当するものであることが明らかであつて、原告らの右主張は採用できない。

したがつて、本願発明と引用例記載の発明との相違点(3)について、本願発明の数値限定に格別な技術的意義はなく、その効果も当業者が予測し得る程度のものにすぎないとした審決の判断に誤りはない。

4 以上のとおりであるから、本願発明と引用例記載の発明との相違点(2)及び(3)についての審決の判断は正当であつて、本願発明は引用例の記載事項及び周知技術に基づき当業者が容易に発明をすることができたものというべきであるから、審決に原告ら主張の違法はない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告らの本訴請求は失当としてこれを棄却する。

〔編注〕本願発明の要旨は左のとおりである。

実質的に平らに形成された砕石及び/又は砂等から成る地盤上に人工芝生を敷設し、その芝目内に川砂を散布して成る人工芝生製運動競技場において、

前記川砂は、一〇〇メツシユないし一四メツシユの範囲内にある粒度のものを九〇%以上含んでいることに特徴を有する人工芝生製運動競技場。

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